保団連速報値:医療機関の63%が減益|期中改定の議論と今後
改定率の内訳から読む、クリニックの備え
クリニック経営 | 診療報酬改定2026 | 保団連速報値 「3.09%」を分解すると、プラス改定でも利益が残りにくい理由が見えてきます。
63% 医療機関全体で減益
68% 診療所で減益
87% 物価高騰対応は「不十分」
※全国保険医団体連合会(保団連)「2026年度診療報酬改定アンケート」速報値(2026年10月28日公表)より
「30年ぶりの高水準」のはずなのに、なぜ手元に残らないのか。
2026年度診療報酬改定の本体改定率は+3.09%。大きく報じられた一方で、保団連が10月28日に公表したアンケートの速報値では、医療機関の6割超が減益と回答しています。
10月22日に公表された中間集計に続く今回の速報値でも、厳しい傾向は変わりませんでした。本記事では、改定率の内訳から「プラス改定でも減益になる理由」を整理し、期中改定をめぐる議論が進むなかでクリニックが今できる備えをまとめます。
この記事でわかること
速報値で見えた減収・減益の実態
「本体+3.09%」の内訳と、利益が残りにくい理由
2024年改定から続く累積的な影響
診療所の倒産と、その意外な要因
期中改定の議論と、クリニックが今できること
📉 速報値で見えた減収・減益の実態
小規模な診療所ほど影響が大きい
図1 前年同月比で「減収」「減益」と答えた割合
保険診療収入が減収(2026年6月)
医療機関全体: 54%
診療所: 58%
経常収支が減益(2026年8月)
医療機関全体: 63%
診療所: 68%
(出典:保団連「2026年度診療報酬改定アンケート」速報値 / 2026年10月28日)
政府の対応への評価も厳しく、物価高騰への対応を「不十分」とした医療機関は87%、賃上げ(ベア)への対応を「不十分」としたのは70%でした。
💬 「大変すぎて燃え尽きた」 ――アンケートに寄せられた声
🔍 「本体+3.09%」を分解してみる
半分以上は「賃上げ分」
「3.09%」という数字は、そのまま医療機関の利益が3%増えることを意味するわけではありません。中身を分けて見てみましょう。
図2 本体改定率+3.09%の内訳
賃上げ分: +1.70%
物価対応分: +0.76%
食費・光熱水費分: +0.09%
経営環境悪化への緊急対応分: +0.44%
その他: +0.25%
効率化(後発品・リフィル等): −0.15%
※出典:報道による改定率の内訳
利益が残りにくい3つの理由
半分以上は「賃上げに使うお金」 最も大きい賃上げ分(+1.70%)は、ベースアップ評価料などを通じて職員の給与に充てるための財源です。収入が増えても、同じだけ人件費が増えるため、利益としては残りません。
「3.09%」は2年間の平均 本体改定率は、2026年度+2.41%と2027年度+3.77%の平均とされています。つまり、2026年度に実際に上がった分は3.09%より小さいことになります。
薬価はマイナス、物価はそれ以上に上昇 薬価は−0.86%で、全体(ネット)では+2.22%。物価対応分(+0.76%)を上回るペースで光熱費・医療材料・委託費などが上がれば、収支は悪化します。
📌 公定価格の壁 保険診療の価格は国が定める公定価格のため、コストが上がっても自院の判断で値上げはできません。賃上げ分は確保されても、物価上昇分を自力で吸収しなければならない――これが、特に小規模な診療所で減益が目立つ理由の一つと考えられます。
⏳ 2024年改定から続く「累積」の影響
「儲けすぎ」という見方と、現場の実感
今回の改定に向けた議論では、財務省などから「診療所の経営は良好」との見方が示され、改定財源の多くは病院に配分されました。
一方、保団連は、2024年度改定の後にはすでに診療所の約4割が経営赤字に陥っていたと指摘しています。その状態から、2026年の物価高と財源配分が重なったことで、減益が広がったという見方です。
図3 診療所の経営をめぐる流れ(保団連の見方)
2024年度改定後 診療所の約4割が経営赤字
2025年 物価・人件費の上昇が続く。財務省は「診療所の経営はおおむね良好」と評価
2026年度改定後 診療所の68%が減益(速報値)
評価が分かれる背景には、平均値で見るか、最も多い層(最頻値)で見るかといったデータの見方の違いもあります。
🏚️ 診療所の倒産、上半期で過去最多
要因の4割は「経営者の病気・死亡」
帝国データバンクによると、2026年上半期(1〜6月)の医療機関の倒産は39件で、上半期として過去最多のペースでした。
区分 2026年上半期 補足
診療所 19件 上半期として過去最多(従来は2009年の16件)
歯科医院 16件 過去最多だった2024年上半期と同水準
病院 4件 前年同期より減少
要因としては、物価高や人件費・人手不足による収益力の悪化、コスト上昇に追いつかない診療報酬が挙げられています。そして見逃せないのが、診療所の倒産のうち約4割が、経営者の「病気・死亡」による事業継続の断念だったという点です。
💡 院長一人に経営も診療も集中しやすい診療所では、院長に万一のことがあったときの備えが、経営の存続そのものを左右します。収支の改善とあわせて、事業承継や、院長不在時に診療・事務を回すための体制(BCP)づくりも、経営課題として考えておきたいところです。
🏛️ 「期中改定」の要請と、今後の注目点
2年に1度の改定を待たずに
診療報酬は原則2年に1度改定されます。保団連は、この周期を待たずに見直す「期中改定」を政府・厚生労働省に求めました。次の改定まで経営が持たないという危機感の表れといえます。
今後のスケジュールで押さえたいこと
2026年11月下旬〜12月上旬 厚労省の経営状況調査の結果公表(報道による)。必要に応じて加算・減算などの対応を検討
2027年度 本体改定率の2年目分(+3.77%)。2027年6月に予定される追加の引き上げについて、厚労省が緊急調査で妥当性を検証するとされる
2028年度 次回の定期改定
※スケジュールは報道等にもとづくもので、今後変更される可能性があります。
🛡️ クリニックが「今」できること
制度の議論を待つあいだに
① 賃上げ財源を確実に受け取る ベースアップ評価料の届出・実績報告を正しく行い、返還リスクを避ける。2027年度の引き上げにも備える。
② 減益の原因を「見える化」 改定前後の月次収支を比べ、収入減・材料費・光熱費・人件費のどこが効いているかを把握する。
③ 加算の取りこぼしを防ぐ 新設・再編された加算の要件と、施設基準のWEB掲示などの対応状況を点検する。
④ 院長に頼りすぎない体制 事務作業の外部化や医療DXで院長の負担を減らし、万一に備えた事業承継・BCPも考えておく。
まとめ:「3.09%」の中身を知り、手元の数字を見る
「30年ぶりの高水準」という改定率の多くは、賃上げに充てる財源です。物価上昇分を価格に転嫁できない公定価格の構造のもとで、特に小規模な診療所ほど減益が目立っています。
期中改定の議論や、2027年度の追加引き上げの行方は注目されますが、制度の変化を待つだけでなく、自院の収支と加算の状況を正確に把握しておくことが、次の一手を決める土台になります。
報道の「改定率」ではなく、自院の「月次の数字」から考える。
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診療報酬改定への対応、ベースアップ評価料の届出・実績報告、加算の取りこぼし確認、施設基準のWEB掲示、医療DXによる事務効率化まで、クリニックのバックオフィスを一体的に支援しています。
用語集
本体改定率: 診療報酬のうち、医師・看護師などの技術やサービスに対する部分の改定率。薬価・材料価格は含まない。
ネット改定率: 本体と薬価・材料価格を合わせた全体の改定率。2026年度は+2.22%。
ベースアップ評価料: 医療従事者の賃上げを目的とした診療報酬上の評価。届出と実績報告が必要。
経常収支(経常利益): 本業の損益に、補助金や金融収支などを加えた利益。
公定価格: 国が定める価格。保険診療の価格は診療報酬点数表で決まっている。
期中改定: 原則2年に1度の定期改定を待たずに、途中で診療報酬を見直すこと。
事業承継・BCP: 事業承継は、経営を後継者に引き継ぐこと。BCP(事業継続計画)は、災害や経営者の不在など非常時にも業務を続けるための計画。
引用・参照
全国保険医団体連合会「『大変すぎて燃え尽きた』-6割超の医療機関で『減益』 26年度診療報酬改定アンケート」(2026年10月28日、hodanren.doc-net.or.jp)
薬事日報 2026年度診療報酬改定率の内訳に関する記事(yakuji.co.jp)
帝国データバンク「医療機関の倒産、上半期として過去最多 『診療所』の厳しさ目立つ」(2026年7月13日、PR TIMES)
弁護士JPニュース「財務省に“儲けすぎ”と言われた診療所『実は7割が減益』」(2026年10月23日、ben54.jp)
弁護士JPニュース「30年ぶり“診療報酬増”なのに『病院の17%が今年度中に資金繰り困難』」(2026年10月21日、ben54.jp)
秋田魁新報「診療報酬『本体』3・09%上げ 政府、30年ぶり高水準」(sakigake.jp)
情報確認日:2026年10月29日
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免責事項 本記事は、公表された調査結果や報道をもとに、医療機関の経営環境をわかりやすく整理した一般的な情報提供です。紹介した保団連の調査は速報値であり、回答した医療機関の状況を示すもので、全国の医療機関全体を必ずしも代表するものではありません。改定率の内訳や今後のスケジュールは報道等にもとづくもので、変更される可能性があります。診療報酬の算定・届出、経営判断、事業承継等については、最新の厚生労働省資料・通知、地方厚生局、税理士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。